名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)424号 判決
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【判旨】
一被告が原告より本件土地を、建物所有の目的で賃料一か月金七九八〇円の定めで賃借し、右土地上に本件建物を所有していることは、当事者間に争いのないところである。
二しかしながら、原被告間の賃貸借契約の成立の年月日、同契約期間につき争いがあるので考えるに、先ず被告は昭和二三年五月ごろ期間の定めなく賃借したと主張するが、<証拠>にてらし措信し難く、他に右主張を支持するに足る証拠はなく、むしろ右原告本人尋問の結果、証人伊藤栄次の証言の一部によると、昭和二三年頃に原被告間で成立した本件土地の貸借契約は兄弟間の使用貸借契約であつて、借主は当該土地に対する固定資産税相当額のみを負担する約定であつたと認められる次第である。
三次に原告の主張する契約につき考えるに、<証拠>を総合すると、昭和三八年一〇月一日作成の公正証書により、原告が被告に対し本件土地を、借地権存続期間は、昭和三三年九月二〇日より向う二〇年間と定めて、賃貸したことが認められ、他にこれに反する証拠もない。しかしながら右昭和三八年一〇月一日までの原被告間の本件土地使用関係が使用貸借契約によるものであつたことは、原告本人尋問の結果によつても明らかであるから、右公正証書による賃貸借契約は、現実には使用貸借契約による使用期間も含めて、借地権存続期間と定めていることになる。
四原告は、前記契約条項によると、本件土地上の家屋は借地権存続期間満了までには三二年を経過することになり、借地契約の法定存続期間(三〇年)を優にこえるから、建物保護、借地権保護の目的は十分達せられるし、契約当事者も対等の立場で円満に合意したものだから、借地法に反する借地人に不利益な条項とは解し難く、適法かつ有効である旨主張している。
しかしながら、このような契約条項が形式的に借地法二条に触れることはいうまでもないが、実質的にみても借地法の目的精神に反することは疑いをいれぬところである。何となれば、借地法二条が借地権の存続期間を法定している主たる目的が地上家屋の保護にあることはいうまでもないが、単にそれのみに終るものではなく、借地人に一定年数以上の使用期間を保障することにより、借地の計画的合理的使用を可能ならしめることも目的になつているものと思われる。
土地の使用貸借の場合でも、建物の存続が許される点では借地契約の場合とかわりはないが、使用借主の地位は極めて不安定なため、勢い借主としては長期的な計画に基づく土地使用ができぬことになり、現実の土地利用上、諸々の制約を蒙るであろうことはこれを推認するに難くないところである。
そうだとすると既経過の使用貸借の期間を借地契約の期間に算入することは不合理であるから、このような内容の契約条項は借地法二条に違反し、借地人に不利な内容の無効な条項と解すべきである。
原告は本件借地契約成立当時、原被告は対等の立場で円満に合意したと主張するが、仮りに原被告の間柄が円満であつたとしても、土地の使用借主に過ぎぬ被告の法律的地位が劣弱であつたことは否定し難いところであり、このような弱い立場にある借主によりなされた合意につき法律的規整を加えるのが借地法の立場であるから、合意成立の一事により、前記契約条項を適法有効と解する訳にはゆかない。
五上述したところによると、本件公正証書において使用貸借の期間を含めて借地権存続期間を二〇年(昭和五五年九月二〇日満了)と定めた契約条項は借地法二条、一一条により無効であるから、結局同借地契約は有効な定めがなかつたことになる。
(夏目仲次)